単層である必然──変わらない構造が厨房で信頼される理由

単層である必然──変わらない構造が厨房で信頼される理由

■ 単層という選択は、現場のための判断である

多層構造の鍋は一見すると高機能に見えますが、プロの厨房では必ずしも最適とはいえません。頻繁な高温、強い衝撃、連続使用──過酷な環境下での長期耐久性が最も重要だからです。

中尾アルミ製作所が採用する単層鍋は、素材が一枚であることにより、熱の伝わり方が安定します。熱が均一に回ることで火入れにぶれが生じにくく、料理の仕上がりに直接よい影響を与えます。加えて、層の剥離といった構造的な故障リスクが低いことも、現場では見逃せない利点です。 


■ 長時間の使用に耐えるための設計

厨房で鍋に求められるのは「華やかさ」ではなく「信頼性」です。たとえば寸胴鍋は、底が凹めば対流が阻害され、味わいにも悪影響を及ぼします。単層で厚みを均一にした構造は、変形しにくく熱を安定させ、結果として焼きムラや焦げ付きが減ります。これが、プロの料理人が単層鍋を評価する理由です。

また、当社ではプレスによってゆっくり圧力をかける工程を早期から採用し、材料の厚みを均一に整える技術を磨いてきました。見た目には地味でも、長年にわたり使われることを前提にしたものづくりが、現場の信頼へとつながっています。


■ 加工工程にも「長持ち」を考える

例えばフッ素樹脂加工においても、当社の工程は一般的な流れとは異なります。加工の順序を工夫することで、フッ素層が長持ちし、結果的に使用環境での耐久性を確保しています。技術は誇示するためのものではなく、使われ続けるためにある——そう考えて設計と工程に向き合っています。


■ 次回予告

次回は、鍋が「育つ」文化について。
使い手の手入れによって生まれる風合いや、道具としての熟成がどのように価値を生むのかを丁寧に紐解きます。